インスリン抵抗性とは?
インスリンは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。血糖値が下がりすぎた時に血糖値を上げるホルモンはいくつもあるのに、上がりすぎた血糖値を下げるのはインスリンだけです。
そんな重要なインスリンですが、実は、同じ量のインスリン(自己分泌でも注射でも)が全ての人の血糖値を同じように下げるわけではないそうです。
たとえば、高度肥満のAさんは、標準体重のBさんと血糖値は同じでも、インスリンは3倍も多く分泌しているかもしれません。Aさんは肥満のためにインスリン抵抗性があるため、3倍のインスリンを分泌させないと血糖値を正常値にキープできないのです。
このように「インスリンの効きが悪い状態」をインスリン抵抗性と呼びます。1型糖尿病でインスリンを注射している方も、肥満の場合はたくさん注射しないと血糖値が下がらないことがあるそうです。
では、インスリン抵抗性が起きる原因はいったい何でしょうか?
肥満
肥満によって脂肪細胞が肥大したり変性すると、壊れた脂肪細胞からDNAが血液中に放出され、このことが免疫反応を引き起こし、慢性炎症につながります。脂肪組織に慢性炎症が起こるとインスリンが効きにくくなります。
また、特に内臓脂肪が肥大すると、脂肪酸が血液を通って骨格筋や肝臓に運ばれ、沈着します。こうなるとインスリンが分泌されても糖が細胞に取り込まれにくくなります。
また脂肪細胞はアディポネクチンというインスリンの効きを良くするホルモンを分泌していますが、肥満により脂肪細胞が肥大するとアディポネクチンの分泌が減り、やはりインスリン抵抗性の原因となります。
やはり肥満は良くないのですね。この場合「肥満」というのは体重が重いことではなく、体脂肪率が高いことを指しています。
体脂肪率が何パーセントを超えると良くないかについては、個人差もかなりあると思いますけど、男性で体脂肪率20%以上、女性で体脂肪率30%を超えると肥満とされています。これを目安にダイエットに取り組むといいでしょう。
糖質制限ダイエットなら、血糖値を爆上げすることなく体重を標準体重まで減らせますので、糖尿病腎症が進行していない方、肝機能に異常のない方はトライしてみてはいかがでしょうか。
運動不足
糖質は、ブドウ糖がいくつかくっついた「グリコーゲン」という形で主に肝臓や筋肉に蓄えられています。血液中のブドウ糖が少なくなった時にグリコーゲンが分解されて、ブドウ糖として使われます。
このグリコーゲン、成人男性の場合肝臓に約100g、筋肉に300gほど蓄えることが出来ると言われています。合わせて約400g、1600kcalに相当しますよね。
運動してグリコーゲンを消費すると、骨格筋の糖取り込みの量が増えますし、インスリンの効きも改善させます。
ただし運動によって消費できるエネルギーはそれほど多くありませんし、運動によるインスリン感受性UPの効果は一時的なものです。週に3日ぐらいは運動する必要があるそうですよ。
また、肥満の方とインスリン基礎分泌が低下している方の場合、運動による血糖降下効果があまり見られないことも分かったそうです。
肥満の方は食事療法も合わせて行って体脂肪を落とすことが大事ですし、「運動するから大丈夫」と過信してはいけないのですね。
遺伝
遺伝子の異常によってインスリン抵抗性が生じる場合もあります。重いインスリン抵抗性を持ち、それ以外にも様々な症状が出る先天的な病気もいくつかありますが、そのような病気はあまり頻度が高くないようです。
軽いインスリン抵抗性を引き起こす遺伝子、すい臓のベータ細胞が死にやすくなる遺伝子、肥満になりやすい遺伝子などたくさんの遺伝子が発見されています。中には、日本人に多いタイプの遺伝子異常もあります。
これらの遺伝子をたくさん持っている人ほど、生まれつきインスリン抵抗性になりやすいと考えられます。
インスリン分泌能力が低いのは遺伝の影響が大きいと言われていますが、インスリン分泌能力の低さだけではなくインスリン抵抗性も遺伝子と関係があると言うことですよね。
ただ痩せるだけでは糖尿病が改善できない日本人が多いのも、このあたりと関係があると思います。
ちなみに、日本人の3人にひとりは何らかの肥満に関わる遺伝子の異常を持っているそうです。よっしーはβ2アドレナリン受容体遺伝子のヘテロ型変異(片親からこの遺伝子異常を受け継いだ)を持っています。
喫煙
喫煙者が2型糖尿病を発症する確率は、そうでない人と比べて1.4倍だそうです。これは喫煙により交感神経が刺激されて血糖値が上がりやすくなることと、インスリン抵抗性が生じることが原因と考えられるそうです。
インスリン注射を行っている糖尿病患者の場合、喫煙者はそうでない患者よりも注射の必要量が15~20%、ヘビースモーカーの場合は30%も余計に注射しているそうです。それだけインスリンの効きが良くないということですね。
喫煙している糖尿病患者では、糖尿病合併症になる確率も上がるそうです。
よく「禁煙すると体重が増える」などと言われますが、糖尿病患者が禁煙して体重が増加したとしても、かえってインスリン抵抗性は減少するんだそうです。肥満以上に喫煙はインスリン抵抗性をUPさせるということですね!
喫煙している糖尿病患者さんは、できれば今すぐきっぱりと禁煙してしまいましょう。自分の力だけでは無理と思うなら、禁煙外来で相談してみるといいですね。
妊娠
妊娠すると胎盤からインスリンの効きを悪くするホルモンが出るため、それまでセーフだった女性でも元々糖尿病になりやすい体質の場合は血糖値が上がり「妊娠糖尿病」になりやすくなります。
妊娠糖尿病は、もともと糖尿病だった女性が妊娠した「糖尿病合併妊娠」とは違い、インスリンは分泌されていますが効きが悪いので十分に血糖値を下げられません。
よっしーも妊娠糖尿病と言われたとき、HbA1cは4%台でした。おそらく、妊娠前は糖尿病ではなかったと思います。
一時的なインスリン抵抗性が原因なので出産が終われば何もしなくても正常型に戻る場合がほとんどですが、たまにそのまま2型糖尿病に移行してしまう方がいらっしゃいます。
また、いったん正常型に戻ったとしても、将来2型糖尿病を発症する確率は7倍だそうです。よっしーもそのパターンです…
他の病気
糖尿病とは関係ない別の病気によって、二次的にインスリン抵抗性が生じる場合があります。
先天性疾患であるインスリン受容体異常症や脂肪萎縮症の他、先端肥大症、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、肝硬変などです。
よっしーは糖尿病で入院した時に原発性アルドステロン症その他ホルモン系の病気がないか等の検査を受けましたが、すべて異常なしでした。
薬の副作用
どんな薬にも必ず一定の割合で副作用が出現します。中には、インスリン抵抗性を引き起こすという副作用を持つ薬もあります。
副作用が絶対に出ない薬と言うものは存在しません。クスリはリスク、ですよね。
ステロイド・インターフェロン・抗ウイルス薬・ホルモン剤・原発性アルドステロン症・抗精神薬・エイズ治療薬などの一部にインスリン抵抗性を起こすものがあります。
よっしーの友人の中に、家族に誰一人として糖尿病患者がおらず、子供の頃から運動神経抜群でスポーツが大好きだったにも関わらず抗精神薬で境界型糖尿病と診断された男性がいます。
薬を飲み始めてから血糖値が高くなった場合は、主治医にそのことを相談してください。病気によっては、別の薬に変えてもらうこともできますから。
ストレス
ストレスには病気などの「身体的ストレス」と「精神的ストレス」がありますが、このどちらも血糖値を上げるホルモンを分泌しますし、インスリン抵抗性を生じさせます。
なんと、糖尿病患者の2~3割がうつ病を併発していると言われ、そのことがさらに血糖コントロールを難しくしています。
うつ病と聞くと、何となく「気分が落ち込む」「消極的になる」とイメージしがちですが、逆に「うまくいかないことを他人のせいにして八つ当たりする」「他人の言動がいちいち気になってイライラする」「バカにされたと思い込み、攻撃的になり暴れる」といった症状もあるそうです。
精神科医の藤川徳美先生は、うつ病の患者さんたちに低糖質高タンパク質な食事指導とサプリメントを処方して、大きな成果を上げているそうです。
糖尿病患者で糖質をたくさん食べていてあまり肉を食べておらず、サプリが嫌いでうつ病のような精神の症状がみられる場合は藤川先生のブログと著書がとても参考になると思います!
ただ…患者本人が「僕はそうかもしれない」と思っていろいろ調べればいいんですけど、中には病識のない方もいらっしゃると思います。
その場合、周囲は大変かもしれませんが、何とか改善されるといいと思います。
藤川徳美『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』
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まとめ:出来る範囲で努力しましょう
インスリン抵抗性が生じる原因はいろいろです。「インスリン抵抗性に関わる遺伝子異常を持たず、これまで運動しておらず、タバコを吸っていて暴飲暴食して太っていた方」はラッキーです。これらをやめるだけで、おそらく劇的に糖尿病が改善すると思います。
でも、遺伝子異常を治すことは今のところまだできません。だから「痩せればOK」「運動すればOK」というわけにはいかないのです。
ただ、自分の努力で何とかできる部分だけでもやってみる価値は十分にあります。タバコもやめて(よっしーはもともと吸ってません)ダイエットもして運動もして、それでもやっぱりダメならインスリン抵抗性を改善する飲み薬を服用することも考えなければいけないかもしれません。
インスリン抵抗性が改善すれば、それまでよりも少量のインスリンで済むのでとても体に優しいです。出来るだけのことを、頑張ってみましょう。