糖質を制限するから低血糖になるの?
ヒトの空腹時血糖値は70~110mg/dLの範囲に保たれていますが、何らかの原因により血糖値が70mg/dLを下回ると「低血糖」とされます。
血糖値が50mg/dLを下回ると、「異常な行動」「けいれん」「昏睡」などが起こって非常に危険な場合があります。高血糖よりも低血糖のほうが短期的には命に関わります。
フリースタイルリブレなどを使用していない場合、深夜に低血糖になっていても気づかないこともあるので気をつけたいですね!
さて、みなさんは「低血糖」になるのはどうしてだと思われますか?糖尿病患者さんであれば「食事の糖質量に対してインスリン注射や薬が多すぎたから」とすぐ思いつく方は多いでしょう。
しかし世間ではまだまだ「食事を抜くから低血糖になる」「糖質を制限するから低血糖になる」と思っている方が多く、そのため「糖質制限はしてはいけません」と言われることも…
しかし、本当に「糖質をたくさん食べないから低血糖になる」のでしょうか?今回はこの問題について改めて考えてみようと思います。
私たちネコは、糖質を摂らなくても低血糖にはならないです。
そうよね。人間の場合はどうかしら?
13時間ぐらい食べなくても全然平気…!?
一般的に、夕食を早めに済ませるのが健康のためには良いと言われています。夕食を18時に食べ終わってその後は何も食べず、翌朝7時に朝食…なんていうのはよくあるパターンです。
18時から翌朝7時までは13時間もあるわけですが、いくら夜中は寝ているだけとはいえ、夕食の糖質「だけ」で13時間持つでしょうか?就寝中も心臓などは休むことなく動いています。
肝臓や筋肉には「グリコーゲン」という形で糖質が蓄えられていますが、これはそれほど多い量ではなく、最後の食事から約10時間ほど経過するとかなり減ってしまいます。
そこで身体は脂肪をエネルギーとして使います。脂肪酸やケトン体をエネルギーとして使える臓器も多いですし、脂肪が分解されてできるグリセロールは一部、糖新生(糖以外から糖を作り出す)の材料となります。
誰でも翌朝の朝食を食べる前数時間は、外部からの糖質が途絶えた状態になっています。だからといって低血糖になる方はそう多くないはずです。
それどころか糖尿病患者では「暁現象」といって、何も食べていないのに明け方の血糖値がかなり高くなることさえよくあるのです!…その糖はいったい、どこから?
暁現象にお困りのあなた、前夜から何も食べなくても、あなたの体は必要以上に血糖値を上げてしまうだけの「余力」があるわけです!!
もっと長時間食べられない日もあったさ…
人類の歴史は「飢餓との戦いの歴史」でもありました。丸一日ほとんど何も食べられない、なんていう日もあったでしょう。夜18時に食事をして、翌日何も食べず、その翌朝7時に食事にありつけたとすれば、約37時間も断食をしたことになります。
私は以前、フリースタイルリブレを使用しながら最長で60時間ほど断食を試みたことがありましたが、血糖値は正常値を下回ることはありませんでしたし体調不良にもなりませんでした。
さすがに遭難などで長期間何も食べられないことが続くと危険な状態に陥ることもあると思いますが…1~2週間ぐらいなら水だけで生き延びた方の話はたまにありますよね。
現代の「デスクワークが多い日本人の生活」では昔よりもずっと運動量は少なくなっているのに、私たちは1日3食のほかにおやつや夜食まで食べられるようになってしまいました。
ちょっと前まではこのようなことは絶対に不可能だったのに…昔は人間だって、もちろん野生動物だって、「食べられない日もある」ことが前提でそれでも命を失わないような体の仕組みがちゃんと働いていたはずなのです。
「ちょっとばかり食べられない日があったり、食べても十分な量の糖質を含んでいなかっただけで容易に低血糖になる」ほどヒトは弱いイキモノになってしまったのでしょうか。
正常血糖を維持できない「理由」を考えよう!
上記のように、本来ヒトはちょっとばかり食事ができなくても低血糖にならず、正常血糖をキープできる能力を持つはずです。
もし大昔のご先祖様が少し糖質を切らしただけで「低血糖でチカラが出ない…」なんてことになったら、獲物を捕まえに行くことも出来なくてすぐに死んでしまったでしょうね。
またお子さんがいらっしゃる女性は「つわり」に苦しまれた方も多いでしょう。つわりのひどさにはかなり個人差があり、長期間ほとんど食べられずに入院する方もいらっしゃいます。
どの妊婦さん向けサイトや本を見ても「水分が摂れていれば大丈夫」「食べられるものだけ食べればOK」とあります。つまり、赤ちゃんには影響はないのです。
こうして考えてみると、ヒトは「糖質を食べないから低血糖になる」というよりも「本来は糖質が入ってこない時間があっても正常血糖値を保てるはずなのに、何らかの原因によってその能力が低下してしまっている人がいる」と言う方が適切ではないでしょうか?
・インスリン注射、薬が多すぎる…食事用のインスリンが多すぎると低血糖になりますが、これは注射量の問題です。食事の糖質やタンパク質量を調整すれば、インスリン注射による低血糖は起こりにくくなるでしょう。
・特殊な病気により低血糖になる…生まれつきの病気で、糖新生がうまくいかないために頻繁に糖質を摂取しないと低血糖に陥る病気があります。
また脂肪酸やケトン体をエネルギーとしてうまく使えない病気、腫瘍によりインスリンが過剰に分泌される病気もあります。これらの病気の方はそう多くないですが、必ず主治医の指示を守ってください。
・ケトン体回路がサビついている…管理栄養士の麻生れいみ先生によれば、ずっと糖質たっぷりの食生活を送っていた人はいきなり糖質を減らしてもうまくケトン体が作れない、いわば「ケトン体回路がサビついている」状態なのだそうです。
ただ、これは先天的な病気とは異なり、しばらくすればスムーズにケトン体が作られる状態になるのだそうです。
・筋肉量が少ない…痩せすぎの女性や子供などで極端に筋肉量が少ない方は糖新生が不十分になりやすく、低血糖になりやすいそうです。
インスリン注射と薬の影響はかなり大きい!
私が通っている病院の糖尿病内科の先生の中でちょっとアンチ糖質制限っぽい?医師がいらっしゃいますが、その先生でさえ糖尿病教室で「低血糖の主な原因はインスリン注射や薬。食事の内容ではありません」と仰っていました。
自分のすい臓のベータ細胞が分泌するインスリンと違って、外から注射したインスリンはいったん入れちゃうと多すぎてもどうしようもないですもんね。
食事とは無関係に24時間少しずつ分泌されているインスリンはとても大切で、これがある程度以上不足すると生命に危険が及びます。
しかし食事用のインスリンは、食事の内容・量によって必要量が大きく変わります。12歳で1型糖尿病になったアメリカのバーンスタイン医師は30代後半から糖質制限をなさっていますが、88歳の現在もお元気です。
私は彼の著書『バーンスタイン医師の糖尿病の解決 第3版』を持っていますが、訳者の太田喜義先生のあとがきによれば、1日のインスリン注射量は基礎6単位(3単位を2回)+食事用が1日合計で10単位前後だそうです。かなり少ない量ですね!
それで若い頃患ってしまった糖尿病合併症の数々まで完全に克服なさったというのだから、これはもう尊敬しかありません。
バーンスタイン先生が患者に勧める食事は、著書によると「朝食は糖質6gまで、昼食と夕食は糖質12gまで」となっています。
母乳が高糖質・高脂質である理由は?
ヒトの母乳100mlには1.12gのタンパク質、3.56gの脂質、7.32gの炭水化物(≒糖質)が含まれます。
これをカロリーで考えるとP(タンパク質):F(脂質):C(炭水化物)=1.12*4:3.56*9:7.32*4≒5:32:29となり、タンパク質が少なめで糖質と脂質が同じぐらい多いことがわかります。
母乳の中で糖質が占める割合が約44%だからといって、その後成長したヒトにもずっとそのぐらいの糖質が必要なわけではありません。だいたい、脂質もかなり多いではありませんか。
赤ちゃんは年長児や大人と比べて糖新生能力が未熟です。だからうっかりすると低血糖になりやすいと言えます。糖質と脂質がたくさん含まれた母乳を飲むことで血糖値が安定します。
また母乳に含まれる乳糖は、グルコースとガラクトースが結合した二糖類です。グルコース(ブドウ糖)のように急激に血糖値を上げることなく、ガラクトースは赤ちゃんの神経系の発達にも必要な糖と考えられています。
赤ちゃんにはそれなりの理由があって、高糖質の母乳が必要なのです。でも離乳した後の子供や大人はそうではありません。
ちなみに、生まれたばかりの赤ちゃんは誰でも血糖値が下がりやすいですが、特別な病気がなければ2~3日で安定するそうですよ。
その症状、本当に低血糖ですか?
たまに糖尿病ではない方が「食事を抜いたら気分が悪くなった。低血糖に違いない!」なんて仰っているのを見かけたことがあります。しかしそれ、本当に低血糖でしょうか?
アルコール依存症ではない方がお酒を飲まない日があっても、特に何も起こりません。しかしアルコール依存症の方の場合は、手のふるえ、悪寒、寝汗、イライラ、不安、焦燥感、睡眠障害などの禁断症状が起こるそうです。
これと同様に、「砂糖依存症」の方は甘いものを切らすとイライラ、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、頭痛、手足の冷えなどの症状が出ることがあるんですって。
「低血糖かな?」と思ったとき、本当に低血糖になっているのかどうかをまず調べなければいけません。低血糖と似た症状は他の原因によって引き起こされることがありますからね。
正常血糖をキープできる身体は有利!
昨夜、『世界まる見え!テレビ特捜部』というテレビ番組で、遭難してしまって1週間後に救助された男性の話を取り上げていました。
もし彼が「容易に低血糖に陥る体質」であったなら、おそらく救助が来る前に命を落としていたことでしょう。
ヒトは牛や馬のようにほとんど1日じゅう食べているわけにもいきませんし、ちょっとばかり食べられない時間があったからといって低血糖に陥るようでは危険ですよね!遭難や食糧危機など、もし十分に食べられない状況になったらどうしますか?
また「糖質をたっぷり食べた後高血糖になり、遅れて低血糖になる」方もいらっしゃいます。これは高くなりすぎた血糖値を下げようと過剰にインスリンが分泌されるためで、私の友人も糖質制限でこれを克服しました。
このように「糖質を少ししか食べないから低血糖になる!」という世間一般のイメージは必ずしも当たっていないんですね。むしろ、糖質のとりすぎで高血糖→低血糖になる人もいるわけで。
「本来、糖質を大量に経口摂取しなくても正常血糖値をキープできる仕組みが人体には備わっている」はずなのに、何らかの原因でその仕組みがきちんと働かないことが問題なのです。
糖質がなくても低血糖にはならず、たまに大量に糖質が入ってきてもきちんと処理できるのが「理想」かもしれません。
しかし、すでに糖尿病と診断されている人は多少なりとも糖代謝に問題があるということを忘れてはいけません。
糖質制限が合わない人もいれば、カロリー制限でうまくいかない人もいます。「糖質をたっぷり食べなければ低血糖になる」と思っている方、あなたの場合は実際に低血糖が起こっているのかどうかをぜひ確認なさってくださいね。
思い込みではなく「自分の場合はどうか」を確かめることが大事ですね!
それに「自分には合わなくてもあの人には合う」とかその逆のこともあるわね。