糖尿病のスティグマ(負の烙印)ってなんだ?
スティグマ(stigma)はギリシャ語で「奴隷や犯罪者の身体に刻まれた印」「個人に非常な不名誉や屈辱を引き起こすもの」という意味があるのだそうです。
このスティグマは、糖尿病患者に対しても問題となります。家族や同僚のほか、時には医療従事者ですら糖尿病患者に対して非難・差別・決めつけなどを行ってしまうそうです。
実際、私も自分が糖尿病と診断されてからの5年ちょいの間に、SNSで医師や看護師など医療関係者と名乗る方が「2型糖尿病は自業自得だから」などと発言なさるのを何度も見てきました。
下のマンガの若き女医ミカコさんも、おじいさんが2型糖尿病だったにも関わらず「2型糖尿病は自己責任だ」と言ってしまっていますね。もしかしら、おじいさんは若い頃不摂生をしていたのかもしれません。
しかし指導医から「実は私も2型糖尿病なのよ」とカミングアウトされたミカコさんは言葉を失ってしまいました。実際、医師や看護師の中にも2型糖尿病患者さんはいらっしゃいます。私が通う病院にも…
2019年の20〜79歳の世界の成人の糖尿病有病率は9.3%で、11人に1人が糖尿病と推定されていることになります。65歳より上に限れば5人に1人が糖尿病という時代です。
1型糖尿病も2型糖尿病もどちらも増加しているんだそうです。これだけ多くの方がかかる病気でありながら、自分が糖尿病であることを隠している方もかなりいらっしゃいます。
何が糖尿病のカミングアウトを阻んでいるのでしょうか。糖尿病だと知られると差別を受けたり、何かと良くないことが起こりがちだから…ということでしょうか。
糖尿病になる人はこんなに多いのに、多くの方が周囲に言えないんですね!!
良くないことが起こるから言えないんだと思うの…
悪いことをしたから糖尿病になったの?
「2型糖尿病は自業自得」「糖尿病が原因で失明や人工透析に至るのは、きちんと治療しなかった人だけ」「食べ過ぎ、飲みすぎ」「運動不足」…決めつけは、挙げればきりがありません。
1型糖尿病の方は「糖尿病というだけで2型と混同される」と悩まれる方も多いと聞きますが、「1型の方は2型とは違いますから」と言われるとそれはそれで「私たち2型は自業自得ってことかしら」とショックだったりしてね。
しかし「生活習慣病」と呼ばれてしまう2型糖尿病は本当に「悪いことをしたから発症する」病気でしょうか?
マンガの5コマ目でミカコさんはコーラを飲み、アップルパイを食べたことが分かります。このような食生活でも2型糖尿病を発症しない方はたくさんいますし、その逆もありますよね。
糖尿病になりにくい体質の方は何を食べても大丈夫で、糖尿病になりやすい体質の方はかなり気を付けているつもりでも発症してしまうことがあります。
たまたま糖尿病になりにくい体質の医師や看護師から食生活についてあれこれダメ出しされたら、正直あまりいい気はしませんよね。
今まで私を診察してくれた糖尿病内科の先生たちは、私の食事についてとやかくおっしゃたことは無いですね。
糖尿病になるずーっと前から、食事も運動も自分なりに気を付けていたつもりです…修行僧のような「カンペキ」な食事ではないにしても!
昔、私は食後に必ず歯磨きをしていましたが虫歯がよくできました。お菓子やジュースをまったく摂取しない時期にも虫歯ができたことがあります。
歯科医に愚痴ると「まんじゅうとか甘いものを食べててロクに歯磨きもしないのに虫歯が1本もないおじいちゃんがいてね、調べたら虫歯にならない唾液の質だったんだよね」ですって!
これは極端な例ですけど、甘いものを食べて歯磨きをしなくても虫歯にならないおじいちゃんは「悪くない」、歯磨きをきちんとしていても虫歯になる人が「悪い」わけじゃないでしょう?
いま健康な方もいつか糖尿病になるかもしれないのに…
上のグラフはアサヒ飲料様のサイトから引用させていただきました。糖尿病および糖尿病予備軍の方は30代まではかなり少ないですが、加齢とともにかなり増えることがわかります。
マンガのミカコさん(20代半ば)のように若い時に「2型糖尿病は自己責任でしょ?」と言っていた人がいずれ発症する可能性は決して低くないです…特に家族に患者がいる方は!
「自分には関係ないわwww」と言って見下したり「糖尿病は自業自得」などと言っていると、いずれ自分がそうなったときに泣きを見ることになるかも…
これだけ多くの方が糖尿病または糖尿病予備軍になるということは、糖尿病を「個人の問題」だけで片付けてはいけないということだと思うのです。
だいたい「食べ過ぎたから糖尿病になった」という判定を誰がするのでしょうか?ある人はご飯のお代わりや清涼飲料水をやめただけでセーフかもしれないし、私みたいに玄米食でもアウトな人だっているのに。
また「糖尿病の治療を中断してはいけない」ことは誰だって本当は分かっているはずです。しかし現実問題として、たとえば費用の問題があります。
私は運悪く、糖尿病網膜症の初期である単純網膜症の段階なのに左目に黄斑浮腫(網膜のむくみ)があります。幸い、程度は軽度で経過観察しています。
ところが、もし黄斑浮腫が悪化するようなら眼球に注射(1回あたり自己負担額55000円を数回!)をしなければいけません。経済的な理由でとてもこんな治療はできそうにありません…
「負の烙印」を押さないでください
1型糖尿病患者も2型糖尿病患者もその他の糖尿病の患者も、みんなそれぞれ何かしらの偏見や差別に悩んでいらっしゃると思います。
しかし糖尿病の治療は進歩しているので、きちんと治療を行っていればほとんどの仕事は問題なくできますし、普通の人と変わらない生活を送ることができます。
糖尿病患者ゆえ「気を付けなければいけないこと」はあります。健康な方ならなーんにも気を付けないで自由に食べたり飲んだりしていいものも、よく考えて飲み食いしたり我慢しなければいけないことはあります。
でも、いくら病気だからと言って「このぐらい健康な方なら普通に食べるでしょ?」ぐらいのものをたまに食べちゃったからと激しく非難されたら、通院する気もなくなっちゃうかも。
人それぞれいろいろな考えがあるでしょうが、私は糖尿病を「恥ずかしい病気」とは思っていません。ただ私は糖尿病になりやすい体質だったから早めに発症してしまったのでしょう。
医療従事者でも時に糖尿病患者さんに対して決めつけで話をしたり非難してしまうことがあるそうですが、そうではない、寄り添ってくれる方もたくさんいらっしゃいますよ!
マンガのミカコさんはまだ若くておじいさん以外の患者はほとんど知らないのかもしれませんが、これから先いろいろな患者と出会うことでしょう。
時になかなか血糖コントロールがうまくいかない患者に出会うこともあるでしょうが、「なぜちゃんとできないんですかッ!」と怒鳴るよりも「なぜうまくいかないのかな?」と一緒に原因を考えてくれるような医師になってくれたらありがたいですね。
糖尿病はみんなで何とかしなければいけない問題なんですね。
そうよ!発症した人が悪い、と言うだけでは糖尿病はいつまでもなくせないと思うの。