いったん空っぽにすることも時には必要かもしれない~断食の話~

断食について

断食は過酷でとても危険!?

糖尿病の予防や治療には「食事療法」がつきものです。いろいろな食事療法がありますが、今回は「断食」についての話です。

「断食なんてとんでもない!」「タンパク質不足になるから絶対にやってはいけない」「断食は危険」という意見が多いのではないでしょうか?

じつは私もどうしても「断食(ファスティング)は危険なのではないか」「筋肉が減るのではないか」という懸念がどうしても頭から離れず、カナダのジェイソン・ファン医師の本を読んでもどこか心配だったのです。

 

 

中には即身仏などを想像してしまう方もいらっしゃるかもしれません。断食=修行=過酷で危険というイメージがどうしても付きまといます。

私は「断食をすると筋肉が減るのではないか?」というのが一番気になってしまって…だって断食中はタンパク質の供給が無いので!

しかし、いろいろ調べたり試してみるうちに「断食は誰にでもどんな場合でも勧められるものではないにしても、時にとても有効な場合もあるのではないか?」という結論に達しました。

チャーコ
チャーコ

断食って長いこと何も食べないことですよね?

よっしー
よっしー

ええ。でも期間は決まってはいないんですって。

ちょっとばかり食事をしなくても平気!

私は7年4ヶ月ほど前に「糖尿病性ケトアシドーシス」で16日間入院しましたが、入院前日の昼食後は何も食べられず嘔吐が続きました。

そして入院した日と翌日はまったく何も食べさせてもらえませんでした…ようやく食事にありつけたのは入院3日目の朝です。

ブドウ糖入りの点滴はしていたとはいえ、合計67時間ぐらい水や麦茶のほかは何も口にしなかった計算になります。

 



 

点滴にもいろいろ種類がありますが、いずれも1日あたりに必要なエネルギーにはとても足りない量のブドウ糖の量だそうです。

点滴で多少のエネルギーを補給していたので断食とは違いますけど、ちょっとばかり十分な食事が取れなくてもヒトは死にはしないということですね。

ちなみに入院時の腹部CTで軽度の脂肪肝を指摘されましたが、退院前の腹部エコーでは「脂肪肝はありません」と言われました。

ヒトは水を飲まないと数日で死亡すると言われていますが、水分がとれていれば長期間生きることができるそうですね。

 

断食とカロリー制限の違い

最近では「1日おきに断食をする」という方法があるようですが「それって日々の食事を半分に減らすのと同じでタンパク質不足になってしまうのでは?」と心配でした。

しかし、結論から書くとホルモンの働きにより2つは決して同じではないのだそうです。ファスティングでは筋肉が減りにくいのだとか。

詳しいことを書くとかなり長くなってしまうので、ジェイソン・ファン博士の本↓↓↓をぜひお読みいただきたいと思います。これ以上ないぐらい詳しく断食について書かれた本です。

どうやら鍵は「インスリン」にあるようです。カロリーを減らしただけでは高インスリン状態を完全に解消できない人も多いんだとか。

 


で、摂取カロリーが不十分な状態でも、血中インスリンがたくさんあると体脂肪はエネルギーとして使われにくく、やたら糖質が食べたくなったり代謝が下がってしまうのだそうです。
糖質制限をすることによって血中インスリンは下がりますが、人によってはそれだけでは不十分だそうで、そんなときこそ断食が効果を発揮するのだとか。
断食により血中インスリンがある程度以下に下がると、脂質がメインエネルギーとして使われるようになり、各種ホルモンの働きにより筋肉も保たれるそうです。

2型糖尿病のインスリン抵抗性

2型糖尿病には「インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい)」「インスリン分泌不全(インスリンが十分に出ない)」の2つの要素があり、どちらが強いかは個人差があります。

いわゆる糖尿病家系の場合、早くからインスリン分泌不全になりやすいとされており、また日本人を含むアジア人では欧米人と比較してインスリン分泌不全がある患者が多いそうです。

1型糖尿病患者は通常、インスリン抵抗性はないと言われていますが、1型でも肥満になってインスリン抵抗性が生じることもあるんだそうです。

さて、「インスリン抵抗性」と断食とはいったいどのように関係してくるのでしょうか?

よく例えられるのは「細胞=電車、ブドウ糖=乗客、インスリン=駅員さん」という話です。電車が空いていれば、乗客はスムーズに乗り込むことが出来ます。

しかし電車内が激混みだと、駅員さんが乗客を押し込まなくては全員が乗ることが出来ません。さらに混むと、駅員さんを2倍3倍にしてもはみ出す乗客が出てくるかも。

 

 

これを解決するためには、駅員さんをやたら増やすよりも多すぎる乗客をいったん下ろすしかないと、それが断食であるとジェイソン・ファン博士の本で説明されています。

冷蔵庫に古い食材がパンパンに詰め込まれたままで「もうなるべく無駄なものは買わないようにするから」と言ってもなかなか片付かないので、新しいものを買うのをいったんやめて古いものを全部消費してしまおう…というようなものでしょうか?

「いや、電車を6両編成から8両編成にすればそのぶん余計にお客が乗れるじゃないか」と言われたらそのとおりなのですが、増やすにも限度がありますからね。

本で紹介されている患者さんたちはカナダ人なので「インスリン抵抗性」がメインの2型糖尿病患者が多いのでしょう。

インスリン分泌不全の人も多い日本人は同じことをしてもそこまで劇的に改善するとは限らないかもしれませんが、試してみる価値はあるのでは?

 

断食をしてはいけない人もいる!

たとえ短期間の断食であっても行ってはいけない人もいらっしゃいます。ジェイソン・ファン博士によればそれは「重度の栄養失調または痩せすぎの人、18歳未満の子供、妊婦、母乳育児中の女性」です。

それに加えて、稀ではありますが容易に低血糖に陥りやすい疾患を持つ方もやはり行ってはいけないでしょうね。

また「絶対にダメというわけではない」けれど持病で薬を飲んでいる人(糖尿病含む)は慎重に、できれば医師に相談してから行ったほうが良いそうです。

糖尿病患者で自己血糖測定を頻繁にできないと低血糖に気づくのが遅れたりして非常に危険なので、可能なら「フリースタイルリブレ」で常に血糖変動をモニタリングしたほうが良いと思います。

たとえ持病のない人でも、よく知らないまま適当に実践しては非常に危険な場合もありますので、を熟読なさってから自己責任で慎重にお願いします。

 

断食中に血糖値が上がることも!?

私は最長で60時間の断食(水、お茶、ブラックコーヒーは飲んでいい)を行ったこともありますが、断食開始から16時間ほど経過した時にちょっと血糖値が上がった経験があります。

上記の本によれば、これは「血中インスリン濃度が下がったため、今まで見えなかったブドウ糖が放出されたために一時的に血糖値が上がっただけ」だそうです。

インスリンは血糖値を下げるホルモンとしてよく知られていますけど、「血糖値を下げる」というのは決して「ブドウ糖をきれいさっぱり消してしまう」ではなく「血中から取り除いて見えない場所(肝臓など)に隠す」と言ったほうが適切かもしれませんね。

 



 

ブドウ糖は血液中にあるものだけを見ていれば良い、ということではなさそうです。そして、いわゆる脂肪肝と診断されるほどではなくてもあなたの肝臓やその他のあちこちにブドウ糖は姿を変えてひっそり押し込まれているかも…

日本人は欧米人と比べると皮下脂肪を大量にためられないと言われているので、わずかな余りも内臓脂肪や異所性脂肪(脂肪肝など)として蓄積しやすいのでしょう。

とにかく、それまで血液中になかったブドウ糖が出てきて「血糖値として目に見える状態」になったからといって焦る必要はなさそうです。

 

断食なんてお腹が空いて我慢出来ないのでは?

これが最大の問題で、主食を抜くことさえ辛すぎて挫折する人が山ほどいらっしゃるのにまして断食なんてありえない…と思いますよね。

じつは、脂質代謝に慣れていればそれほど強烈な空腹感は無いと思います。今まで3食+おやつや夜食に甘いものを食べまくっていたような方なら半日も持たないかもしれませんが。

ただ人間というものは、「脳」が食べ物を求めてしまうことが多いので…たくさん食べたはずなのにデザートは別腹、なんてこともありますよね?

「何となく口寂しい」「美味しそうだから我慢できない」といった理由で断食を断念する方もおそらくかなり多いのではないかと想像します。

 

 

家族の食事を作っている女性などはちょっとしんどいかもしれませんが、シェフがお客様用に作った料理をいちいち食べたりはしないことを思い出し、家族のためのシェフに徹しましょう。

ちなみに動物園のライオンやトラなどの肉食獣には、餌を与えない「絶食日」を設けているそうです。本来、毎日食べられるのが当たり前ではないのに毎日食べさせることが動物の健康に良くないからです。

たった1日食べないだけで低血糖になるとか消化器系の病気?になるのがデフォであれば、とてもそんなことはできないでしょう…ただしある種の病気で低血糖になりやすい方は必ず主治医の指示をお守りくださいね!

 

長期間の断食について…

冒頭でちらっと即身仏の話をしました。かつて真如海上人という方が、まず前準備として穀物断ちを行った後、水と塩しか摂らない本断食を47日間行ったそうです。

その後地面の下にお入りになったわけですけど、つまり47日間の断食を終えた時点でこの方はご高齢にもかかわらずまだ無事に生きていらっしゃったということです。

もちろんこれは宗教上のことであって、現代において健康やダイエット目的のためにここまで長期間の断食をしなければいけない方は日本人にはそこまでいらっしゃるとは思えません。

 



 

しかし、断食前にまず穀物を断って糖質中心から脂質中心の代謝へと切り替えた上でスムーズに断食が行えた点などは非常に興味深いものがあります。

昔、スコットランドで医師の監視のもとで体重206.8kgの男性が382日間の断食を行って成功したそうですが、そんなに長期間食べないなんてとても無理!!と思いつつも「大したもんだ」と感心もしてしまいます。

特殊な病気を持たない、(糖尿病以外は)特に問題のない方は普段糖質に依存した食生活をしていなければ、たまにふっと数日間の断食をしたぐらいでは全然問題ないことが多いのかもしれませんね。

 

カロリー制限して運動すればいいのでは?

「断食なんて極端なことをしなくても、食事を控えめにして運動をしていればそれで良いのでは?」というご意見もあるでしょう。私も以前はそう思っていました。

しかし、どうやらその方法ではどうしても無理な方も確かにいらっしゃるようなのです。「高インスリン状態」をいかに断ち切るかという点において、普通の食事制限と運動では不十分な場合です。

「食事を減らして運動すれば」と言っても、高インスリン状態で糖質代謝の状態では体脂肪はエネルギーとして使われにくい状態になっているそうです。つまり頑張っても結果が出にくいわけです。

ジェイソン・ファン医師は「糖質制限はインスリン値を減らす良い食事療法ではあるが、それだけでは効果が十分でない人もいる」とおっしゃっています。

 

ジェイソン・ファン『トロント最高の医師が教える世界最有効の糖尿病対策』
世界中で増えている2型糖尿病をどうしたらいいのか?ベストセラー本のレビュー記事です。

 

もしかするとこれが「ダイエット目的でちょっと糖質制限するだけでどんどん痩せる」人とそうでない人の違いで、すでに2型糖尿病になりかけている人では効果が出にくい原因なのでは??

高インスリン血症がもたらすと考えられている病気はたくさんあるようですが、これらを素早く解消したいと願う人達にも断食は良い方法なのかもしれません。

「誰にでもベストな方法と言うわけではないが、必要な時に適切に行えばかなり効果的ではないのか?頭ごなしに否定するべきではないと思う」が私の個人的な意見です。

ただしいったん「空っぽ」にしてしまった後は、またタンパク質を十分に摂取することを心がけたほうがいいと思います。

 

「正しいやり方」をひとつだけ選ばなくてもいいと思う…

どうもこの頃は極端というか「この方法だけが正解!他は全部ダメなので否定する!」みたいな事が多いように見受けられます。

でもね、そんなのは人によって異なるんじゃないでしょうか。普段は糖質制限orカロリー制限しつつ筋トレして、たまにプチ断食したって別にいいと思うんです、自分に合うのなら。

正直、私もまだ「本当に断食で筋肉が減ったりはしないんだろうか?」と半信半疑なところはあるのですが(自分が60時間より長い断食を試したことがないため)…きちんと試していないことを否定するのはもったいない気がします。

私は普段糖質制限して高タンパクな食生活を心がけ、運動もしてビタミン・ミネラルのサプリメントも飲んでいますが、常に誰でもこれさえやれば万事解決とは思っていません。

 

 

たとえばタンパク質はとても重要ですが、だからといって誰でもどんな状態でもただタンパク質を大量にぶち込めばすべて解決!!というのはあまりにも乱暴だと思うわけです。

どの方法も、必要な・合う人が適した時期に適切に取り入れれば良い成果を出すことが出来るのではないでしょうか。

なお実践にあたっては本をきちんと読むこと、不安であれば主治医に相談なさることが大事です。

なおもちろん英語ですが、ジェイソン・ファン医師はTwitterもなさっているので、もっと詳しく知りたい方はフォローをなさってみてはいかがでしょう。

 

チャーコ
チャーコ

興味がある人はまずきちんと勉強しましょう!

よっしー
よっしー

ジェイソン・ファン博士は腎臓内科医で、糖尿病患者たちをたくさん診てきた医師よ!

 

 

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