天才外科医は糖尿病患者を救える?
天才無免許外科医のブラック・ジャックが登場する『天才だけでは、救えない』というテレビコマーシャルをご覧になったことがある方は多いでしょう。
私は小学5年生の頃からのBJファンなので、あのCMにはハッとさせられました…確かに、どんなに天才的な技術を持つ外科医でも臓器移植をするには臓器提供が必要です。
子供心に「自分の細胞で自分の臓器をコピーして移植すれば良いんじゃないか」と思ったものですが、たとえ臓器1つだけでもいろいろな問題があって簡単には実現できないようですね。
漫画の中でも、BJが皮膚、腎臓、角膜などいろいろなものを患者に移植するシーンが登場します。現実ではちょっと不可能と思われる手術もありますが、そこは漫画ということで…
さて、臓器、骨髄などとは意味が異なりますが、糖尿病もまた「天才的な医師がいたとしてもそれだけでは救えない病気」であることは同じです。
高度肥満の患者さんで糖尿病を発症してからの期間が短くインスリン分泌が保たれている場合、胃を小さくする手術によって糖尿病が劇的に良くなることがあるそうですが、日本人でこの条件に当てはまる人はそう多くなさそうです。
心停止したドナーのすい臓からインスリンを分泌するβ細胞を含む「膵島」を取り出して1型糖尿病患者さんに移植する方法はありますが、免疫の問題もありますし、まだまだ全ての患者さんが気軽に受けられるものではありませんよね。
そして糖尿病患者の多くを占める2型糖尿病を「天才医師が劇的に治す」のはまあ無理でしょう…外科的にも、薬や食事指導にしても…
そういえばブラックジャックで糖尿病の話ってないよねぇ。
健康な男性にインスリンを注射する話はあったけど、それは糖尿病のエピソードではないからね!
クミちゃんの糖尿病は治ったと思う…
『ブラック・ジャック』にはBJの恩師・本間丈太郎先生の娘クミちゃんが登場するエピソードがあります。
彼女はクッシング症候群という病気で、それをBJが手術してすっかり治しました。この病気ではホルモンの異常から肝臓での糖新性の亢進、グリコーゲン分解亢進などによる糖放出亢進、脂肪や筋肉でのブドウ糖取り込み低下、またグルカゴン分泌亢進などが起きるために糖尿病の状態になると考えられています。
クミちゃんが糖尿病の症状があったかどうかは作中では語られていませんが、仮にそうだったとしたらこの場合は「BJが手術で治した」ということになるでしょう。
クッシング症候群の患者さんが耐糖能異常になる確率は70~85%と高率だそうです。他にも別の病気が原因で糖尿病になる(=二次性糖尿病)ケースが有り、その場合は元の病気が治れば糖尿病も治ることが多いのでしょう。
薬を駆使しても糖尿病は完治しない!
糖尿病を上手にコントロールすることはできるでしょうけど、ブラック・ジャックのような天才的な医師が何をしても2型糖尿病を「完治」させることはおそらく出来ないでしょうね。
そもそも糖代謝と関係のある遺伝子を書き換えることはできませんし、毎日の食事や運動などは患者が自分で管理することなので、医師がどんなに素晴らしい指導をしてもそれだけでは…
ちなみにBJは天才ですが、あまり健康を意識して食事をしているとは言えないようで…彼の好物はカレーとカップラーメンです!きっと糖尿病になりにくい体質なのでしょう。
そもそも糖尿病は今のところ「寛解」はあっても「完治」はないとされている病気です。食事や運動をまったく意識することない生活を送っても常に正常血糖値を保つというのは、難しいですね。
糖尿病は「スーパードクターが天才的な腕でスッキリ治してくれる」類の病気ではないことは間違い有りません…
医師でも2型糖尿病の方はけっこういらっしゃるわけで、彼らも治ってはいないのですから!
病気は治しても治してもどんどん湧いてくる!?
糖尿病を外科的に治すことは(高度肥満の肥満手術や、他の病気が原因で二次的に糖尿病になった場合などを除けば)できないわけです。
仮に手術で治せる病気でも、その病気が何らかの生活習慣と関連のある病気である場合、どんな天才外科医が最高の手術を行ったとしても「病気の原因」を絶たなければ病気は次々と湧いてくるのでは?
(当ブログの記事『病気と人類の戦いはまるでモグラ叩きのようですね』より)
↑↑↑次々とモグラ叩きのように湧いてくる病気をその都度「叩く」よりも、モグラ叩きマシンのスイッチを切ってしまったほうがずっとラクですね…切り方を知っていればの話ですが。
「天才的なお医者様が魔法のように病気を治してくれる」なんてことは、少なくとも糖尿病などの病気においては当てはまらないということを忘れてはいけませんね。病気をコントロールするのは自分です。
ワハハ…すごいお医者さんが治してくれると思わないことだな!
良い先生に良いアドバイスをもらったとしても、日々実践していくのは自分なんだからね!