厳格な糖質制限で腎機能が悪化する?
糖質制限で有名な江部康二医師のブログに「糖質制限食で腎機能は悪化しない。」というタイトルの記事が載っていました。
なんでも、若い男性が徹底的に糖質制限をしていて腎機能が悪化し、入院して通常の病院食にしたら腎機能が正常値に戻ったというのです。
それでその患者さんを担当した医師が「塩分が多すぎたり、炭水化物を完全に抜いてタンパク質と脂肪だけを食べていると腎機能が悪くなることがある」と。
これを聞くと「へぇー、やっぱり偏った食事は健康に良くないんだぁ」と思われるかもしれません。
江部康二医師は「速やかに腎機能が正常値になったのであれば、単にその患者さんが(何らかの原因で)脱水状態であった可能性が高い」とおっしゃっています。
確かに慢性的に腎機能が低下してしまったのであれば、ただ入院しただけで何らかの治療を施したわけでもないのにすぐに回復するというのは考えにくいですよね。
7年4か月前に入院したとき、すでに糖尿病腎症と診断された私。それからずっと糖質制限を続けていますが、幸いまだ腎機能は正常です。
これまで何度も当ブログでも取り上げている話題ではありますが、江部医師の記事をきっかけに再度考えてみようと思います。
そうね、気をつけないとね!!
糖質制限していない人はどれぐらい腎不全になるの?
「糖質制限すると腎機能が低下する」のであれば、糖質制限している人と通常の食事療法をしている人では前者のほうが腎機能低下が多いはずです。
上のグラフは糖尿病ネットワーク様のサイトから引用させていただきました。日本でまだ糖質制限が流行していない時期から糖尿病腎症により人工透析になる方はぐんぐん増加してきましたが、これは明らかに糖質制限のせいではありませんよね!
ほぼ同じ時期のデータで比較すると、厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」の調査で「糖尿病が強く疑われる日本人」は約1000万人、翌年末の段階で糖尿病腎症が原因で人工透析をしている方は12万5247人だったそうです。
つまり糖尿病患者のうち約1.25%はすでに人工透析をしており「このままだと数年後に人工透析をしなければいけなくなる」という状態の人もかなりいると思われます。
100人の糖尿病患者がいればそのうち1~2人ぐらいは人工透析をしており、そこまではいかないけど腎機能が低下し始めている方はかなりたくさんいるということです。
糖尿病ではなくても、日本の成人の8人にひとり(12.5%)は慢性腎臓病とされていますからね…糖尿病患者に限って見れば、さらに高い数字になりますよね。
調べてみると、なんと、日本の2型糖尿病患者のうち糖尿病腎症がある患者は46%以上と考えられるそうです。これは、ゆゆしき事態であります。
糖尿病腎症でも初期段階であれば腎機能は正常なのですが、腎機能が落ち始めるとそこからの進行は早く、どんな治療をしても回復は困難なようですね…
このように、たとえ糖質制限をしてなくても糖尿病腎症から腎機能低下、人工透析に至る方は決して少なくありません。
たまたま糖質制限をしていて腎不全になった患者がひとりふたり外来に来たとしても、本当にそれは糖質制限が原因かどうかは簡単に分からないのではありませんか?
ある程度以上腎症が進行してしまったら、断糖しようが何をしようがもう元の状態に戻すことは難しいですし…
タンパク質過剰が良くないならトレーニーは?
よく「糖質制限してタンパク質を摂りすぎると腎臓に悪いのではないか?」と言われますが、糖質制限していてもタンパク質摂取量はせいぜい体重✕2~2.5(g)程度ではないですか?
私は若い頃スポーツクラブで働いていましたが、体作りをする方たちは女性でも体重✕2(g)のタンパク質を摂取するのは常識で、ボディビルダーの男性などはもっと大量に摂取されてましたけど、お客様でそれが原因で腎不全になった方は聞いたことがありません。
もっとも、たまたまそういう生活をしているトレーニーさんが腎臓病になることはあると思います。前述の通り、糖尿病じゃなくても日本の成人の8人にひとりは慢性腎臓病なのですから。
一般の成人の8人にひとりが慢性腎臓病になるので、もしタンパク質過剰がそんなに腎臓に悪いならトレーニーさんは2~3人にひとりぐらいは慢性腎臓病になってもおかしくないんじゃないですか?でも実際はそうじゃないですよね!
プロテインを飲んでいなくても糖尿病じゃなくても8人にひとりは慢性腎臓病になるのに、たまたまプロテインを飲んでいたり糖質制限をしている人がそうなると「タンパク質が悪いんだ!」と言われてしまうのかなと。
よく考えたら、8人にひとりが慢性腎臓病になる世の中でトレーニーだけが誰一人として慢性腎臓病にならない、なんてことがあるはずがないんですよね!食事に関係なく。
それじゃ糖質を摂らないことが腎臓に悪いの?
「違う、タンパク質過剰だけではなく糖質を食べないから腎臓が悪くなるんだ」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
それだと糖質には腎保護効果があるということになるのでしょうか?ちょっと考えてみてほしいのです。
当たり前ですが、非糖尿病者は糖尿病腎症になりません。その他の腎臓病にはなりますけど、糖尿病腎症になるのは糖尿病患者だけです。
私の前の主治医がおっしゃったように、糖尿病患者がたまたま糖尿病腎症ではない別の腎臓病になることもあります。つまり糖尿病患者は、そうでない人よりもかなり腎臓病のリスクが高いということです。
腎臓が悪い糖尿病患者は、それまで非糖尿病者と比較して糖質の摂取量は少なかったのでしょうか?むしろ、糖質大好きでついつい食べすぎていた…という方も少なからずいらっしゃる気がしますけど。
そして、糖尿病患者は非糖尿病者よりもたくさんタンパク質を摂取していたのか?に関しては、人によるとしか…糖質ばかりに偏った食事を好む方も多いでしょうしね。
猫が腎臓病になるのは肉食のせい?
猫が腎臓病になりやすいのはご存じの方も多いと思います。「ははあ、猫は肉ばかり食べているから腎臓病になるのだな」と思われるかもしれません。
しかし、実は猫には食生活とは違う「腎臓病になりやすい理由」があったのです。
ヒトやネズミの場合、腎臓の尿細管にちょっとゴミのようなものが詰まって障害が起きてもすばやくそれを取り除くことが出来、腎機能が正常に戻ります。
ところがどういうわけか、猫は体質的にそれが出来ないので腎臓が悪化してしまいやすいのです。猫の腎臓病を予防・治療するための研究が進められています。
自分に合った食事療法を!
現在、「糖質制限食で腎機能が悪化するというエビデンスは存在しない」とされていますが、どんなことでも合わない人は居ますので、高タンパク食が適さない方もいらっしゃると思います。
そのような方は自分に合った食事療法をなされば良いだけであって、他のうまくいっている人たちにまで「タンパク質は危険だからプロテインや糖質制限はやめたほうがいい!」とは言えないんじゃないでしょうか。
だいたい、糖質制限がそこまで危険な食事療法なら、米国糖尿病学会が患者たちに勧めるわけがありませんしね!
誰が何と言おうが、自分が調子がよくうまくいっていればそれでいいんです。他の人のことは関係ありません。
そして、すでにかなり腎機能が悪くなってしまった方の場合、カリウム制限をしなければいけないので「肉をやめて野菜や果物をたくさん食べよう」ということもできなくなります。
腎機能正常な人の腎機能が糖質制限食によって低下するというエビデンスは今のところないと言っても、個人レベルではやはり、慎重に自分に合う方法を模索すべきではないでしょうか。
病院で指導された通りの食事をしていてもじわじわと腎症が悪化していき、人工透析になってしまった方も知っています。結局、自分でよく考えて慎重に行うしか無いのです。
いろいろな人がいるんだから、みんな自分に合った方法にすればいいね!
昔はみんな一律カロリー制限をさせていたけど、明らかにうまくいかない患者がたくさんいたんだものね。