糖尿病は、尿に糖が出てくる病気なの?
糖尿病は、血糖値が正常値を超えて高い状態が続き、時に尿の中に糖が出てくることがある病気です。
尿に糖が出てくること自体が何か良くないことを引き起こすわけではありません。腎臓は血液の中の要らないものをろ過するのですが、ろ過した後にブドウ糖を再び体内へ戻します(再吸収)。
なぜかというと本来、ヒトは大量に糖質を食べるという前提の生き物ではないので、体内で作られる貴重なブドウ糖を無駄にしないような仕組みになっているのです。
ところが、血糖があまりにも多すぎると再吸収が間に合わず、体内に戻しきれなかった糖が尿の中に出てきてしまいます。これが尿糖です。
結局、糖尿病という病名には「尿」の文字が入っていますが、本当は尿ではなく血糖が高すぎる状態が続くことが問題なわけです。
血糖値が正常値を超えて高くなる原因は、血糖値を下げるための唯一のホルモン「インスリン」の分泌量が足りないか、または分泌されていてもうまく働かないためです。
日本人の糖尿病のうち95%は2型糖尿病(もともとの体質に加え、後天的な原因が加わって発症)です。1型糖尿病は自己免疫疾患で自分のすい臓のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)が破壊されることによって起こります。
基礎分泌インスリンはとても大切なものです
1型糖尿病ですい臓のベータ細胞からほとんどインスリンが分泌されなくなった患者さんは、生きるために必ずインスリン注射が必要です。インスリンは食後に血糖値を下げるだけではなく、他にも重要な役割を持っているからです。
ヒトは主に肝臓で、アミノ酸やグリセロールなどを材料にして必要な糖を作っています(糖新生)。これは誰でも夜間就寝中などには普通に行っていることです。
肉食動物のライオンや猫が糖質を食べなくても低血糖になったりしないのも、もちろんこの糖新生のおかげですよね。
遭難するなどしてずーっと何も食べられない状態が続けば別ですけど、肉をきちんと十分量食べていればそのアミノ酸が糖新生に使われるので、筋肉が落ちてガリガリになることはないのです。
さて、肝臓は糖新生によって糖を作っていますが、1型糖尿病でインスリンがまったく分泌されなくなると肝臓は抑制が効かなくなり、やたら糖を作ってどんどん放り出します。
こうなると、血液中にどんどん糖があふれ出します!何も食べていないのに血糖値は500や600にもなります。1000を超えて昏睡状態となり救急搬送された方もいらっしゃいます。
上の図は日本イーライリリー(株)様のサイトからお借りしました。実際には軽度の2型糖尿病患者さんはむしろ健常者より大量にインスリンを分泌していることもあるんですけど、ここではとりあえず置いておきます。
食事とは無関係に24時間少しずつ分泌されている基礎分泌インスリン(ベーサルインスリン)は、肝臓の暴走を抑えて健康に生きていくために絶対に欠かせないものです。
じゃあインスリンをどんどん足してやればいいの?
1型糖尿病の方が生きていくために注射で基礎分泌インスリンを補うことは絶対に必要なことです。2型でも重症になり極端に基礎分泌インスリンが不足すれば注射を行う場合があります。
では、「足りないインスリンは注射で補ったり、2型の場合はインスリンを分泌させる飲み薬で治療すればOK」と言えるでしょうか?
上のグラフを見れば分かりますが、食事で糖質を大量に摂取した時はものすごくたくさんの量のインスリンが必要になります。
2型糖尿病の患者さんではインスリンの効きが悪くなっているので、同じ血糖値を保つためには健常者より大量のインスリンが必要になります。
妊婦さんもインスリンの効きが悪くなっているのですが、まぁ妊娠期間は短いのでインスリンの体への悪影響はそれほど心配しなくてもいいかもしれません。
しかし2型糖尿病患者の場合、「血糖値さえ上がらなきゃいいんでしょ?」とたくさん食べてインスリンを打っているとインスリンの作用で太り、もっとたくさんのインスリンが必要になっていきます。
大量のインスリンが体内にあると、動脈硬化・ある種のがん・認知症・肥満などのリスクが高くなるのは明らかです。
糖尿病合併症の原因の一つも高インスリン血症だと考えられています。果糖の過剰摂取によりAGEs(最終糖化産物)ができることも糖尿病合併症の原因です。
だから決して「インスリンを補えばOK」ではないんです。2型の方はまずインスリンの効きを良くすることを真っ先に考えましょう。
そのためには、ダイエット・適度な運動・禁煙・ストレス解消を心がけましょう。血糖値を上げる副作用のある薬を服用している方は医師によく相談しましょう。
インスリンの効きが悪くなっている状態を放置したままでいくらインスリンを補っても、ますます高インスリン血症がひどくなるだけです💦
健常者と同じになれば問題はない?
1型糖尿病の方は足りないインスリンを注射で補い、2型の方はまずインスリン抵抗性を解決するために努力します。
ではそれで健常者の方たちとまったく同じで何ら問題はないのでしょうか?実は糖尿病ではない健常者の方たちも、現代の食生活そのものに大きな問題があります。
もともとヒトはネズミさんなどと違い、穀物を食べる前提で進化してきていません。大量に糖質を経口摂取しない前提だからこそ、血糖値を上げるホルモンはたくさん用意しているのに下げるホルモンはインスリンだけで十分だったのです、昔はね。
大昔、ヒトは「血糖値を下げなければならない」ような状況はめったになかったんです。せいぜい、秋に果物を見つけて大量に食べた時にそれをインスリンの作用で中性脂肪に変えて皮下脂肪として蓄え、厳しい冬に備えたぐらいでしょう。
ところが現代人は、ロクに動きもしないくせになぜか「1日3回たくさん糖質を摂取しないと脳や筋肉がダメになります」というどこかのお店の宣伝をほとんどの方が信じています。
そしてたまたまインスリン分泌能力が低い人から順番に糖尿病を発症し、インスリン分泌能力が高くて糖尿病にならなかった方は糖質由来の他の病気になるわけです💦
2型糖尿病患者は、残された少ない量のインスリンでも何とかやっていけるように糖質制限をします。1型の方も、血糖値の乱高下をなるべく少なくするために糖質制限を行う方がいらっしゃいます。
しかし糖尿病ではない方もたくさん糖質を摂取していれば、長い時間をかけて糖質による害はしっかり受けることになります。
寿命が短く、その害が表面化する前に多くの方が亡くなっていた昔と違い、現代は長生きできるようになったからこそ認知症やガン、そして2型糖尿病が深刻な問題になってきました。
糖尿病をただ単に「インスリンが足りなくなる病気だからインスリンを補えばいい」と考えるのではなく、糖尿病ではない方を含めてどうしたら健康に長生きできるのかを考える時期が来ているのではないでしょうか。