ケトン体が増えるから糖尿病性ケトアシドーシスになるって!?
うっかりしていましたけど、以前テレビの健康番組で「ケトン体が体に良い」という内容を放送したようですね。
それで「ケトン体が増えると糖尿病性ケトアシドーシスになることもあるから危険なのに!!」という意見をいくつか見かけたので気になりました。
すでに何度も書いていますが、よっしーは4年前に「糖尿病性ケトアシドーシス」で入院した経験があります。当時の詳しい経緯はこちらの記事を…
糖尿病性ケトアシドーシスになると血液中のケトン体がかなり高い値になります。よっしーの場合は血中総ケトン体は10000μmol/Lを超えていました。
そのうちβヒドロキシ酪酸と呼ばれるものは7900μmol/Lでした。このβヒドロキシ酪酸を自宅で測定できる血糖測定器があります。
なんと、糖質制限していてβヒドロキシ酪酸が8000μmol/Lまで上がっても何ともない方を知っています。糖尿病ではない女性の方です。
つまり、ケトン体の数値だけ見れば、糖尿病性ケトアシドーシスで緊急入院したよっしーとその糖質制限している健康な方はまったく同じなんですね~!
単にケトン体の数値だけを見て「危険だ!」と騒いだり「ケトン体が増えるから糖尿病性ケトアシドーシスになるのだ」という決めつけはちょっと違うのでは?というお話をさせていただきますね。
ケトン体の数値だけを見てあれこれ言うと、おかしなことになってしまうんだよな。
そうね、数値だけ見ても何も分からないわ。どうしてそうなっているのかを考えないとね。
血中ケトン体が増えるのってどういう時なの?
ケトン体は、脂肪酸やアミノ酸などから作られたエネルギーです。体の中でブドウ糖しかエネルギーにできない部分はごくわずかです。
マンガ「はたらく細胞」でご存知の赤血球ちゃんはブドウ糖しかエネルギーとして使えません。脳のニューロンはケトン体を使えますが、グリア細胞はブドウ糖を使います。
例外的にブドウ糖しか使えない者たちのために肝臓でアミノ酸やグリセロールから糖が作られているので、糖質制限しても健康な方は低血糖にはなりません。
多くの方は日常的に糖質を多く摂取しているため、エネルギーは糖質代謝に頼っています。しかし何らかの理由で脂質代謝に傾くと、血中ケトン体が増加します。
ヒトの歴史は飢餓との戦いでした。毎日食べ物が確実に手に入るとは限らないからこそ、体内にわずかしか蓄えておけない糖質ではなく大量に蓄えておける脂質が大事だったんです。
食べ物がない時、体脂肪をケトン体に変えてエネルギーとして使うことでヒトは生き延びてきたのです。妊婦さんが「つわり」でロクに食べられなくても水さえ飲めれば大丈夫と言われるのもこういうことです。
糖質はせいぜい1200~1600kcal相当しか体内にためておくことはできませんが、標準的な体脂肪率の女性でも脂肪は90000kcal分ぐらいは蓄えてあります。
何のためにそんなにたくさんの脂肪を体脂肪として蓄えてあるのかを考えれば、ケトン体が本来、ヒトにとってとても重要なエネルギーだということがお分かりになるでしょう。
糖質制限をしている場合、外から入ってくる糖質が少ないので足りないエネルギーは自分の体脂肪を分解して補おうとするのでケトン体が増えるのは当たり前ですよね。
すでに痩せている方の場合は、体脂肪が減りすぎないようにお肉などをしっかり食べる必要がありますね。
ふだん糖質制限をしていてケトン体が出ている人でも、ちょっと糖質を食べ過ぎるとケトン体はとたんに出なくなります。これは尿検査をするとすぐに分かります。
しかし、糖質制限している健康な人の血中ケトン体が増加する(=生理的ケトーシス)のとは違った危険な状態が糖尿病性ケトアシドーシスです。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因は極端なインスリンの作用不足!
「ケトン体が増えると糖尿病性ケトアシドーシスになる」と思い込んでいる方がまだちらほらいらっしゃるようです。
しかしその理屈だと、糖質制限をきっちり行っている糖尿病患者はみんな糖尿病性ケトアシドーシスになってしまうはず…
よっしーは糖尿病性ケトアシドーシスになる前、まったく糖質制限なんてしていませんでしたよ?むしろ糖質摂りすぎてました。
もともと何年も前から2型糖尿病を発症していて、専業主婦で検査を受ける機会がなくそのまま気づかずに普通に糖質を食べる生活をしていてじわじわと悪化していったと思われます。
そして風邪で寝込んでしまい、「風邪の時にはこういうものがいいだろう」と思ってうどんやみかんなどの糖質ばかり食べたことが最後のダメ押しとなって糖尿病性ケトアシドーシスを起こしたのでしょう。
1型糖尿病の方がインスリンを打ち忘れたり、2型糖尿病でも糖質の摂りすぎが続いたりすると高血糖になります。
2型の場合はある程度インスリンは分泌しているのですが、高血糖→インスリンの効きが悪くなる→ますます高血糖→ますますインスリンの効きが悪くなる→インスリンが出なくなるという悪循環(=糖毒状態)に陥ります。
糖尿病性ケトアシドーシスでは、血糖はたくさんあるにもかかわらずインスリンが作用しないので体はその血糖をエネルギーとして利用できません。つまり、糖が無いのと同じです。
血液はそう簡単に酸性になったりしません!
健康な人が糖質制限をしてケトーシスになっても、血液が酸性になったりはしません。呼吸によって血液のPHはきちんと調整されているんです。
ところが糖尿病性ケトアシドーシスの時は体中の代謝がめちゃくちゃに狂っているので、このような調整もうまくできません。
「肉を食べると血液が酸性になるよ」などと専門家(?)の方がおっしゃっているのを見かけてビックリすることがあります。
血液のpHは、非常に狭い範囲の中でキープされており、これが酸性やアルカリ性に傾くというのは非常に重大なことなんですよ?
よっしーは糖尿病性ケトアシドーシスのとき、呼吸まで苦しくてこのままだと死んでしまうのではないかと思いました。こんな経験をしていないくせに軽々しく語らないでほしいです💦
ちょっと何かを食べたからと言って簡単に血液が酸性になったりアルカリ性になったりはしません。本気でこれを信じている方は、ちょっと考え直してみたほうがいいですよ。
ケトン体の「正常値」をどう考えたらいいのでしょうか?
一般的に、血中ケトン体の正常値は130μmol/L以下だとされています。でもこれは、数値が130μmol/Lを超えると何か体に良くないことが起こるからという意味ではないんです。
糖質を普通に食べているのに血中ケトン体が異常に増加してきた場合は、確かに何か良くないこと(糖尿病性ケトアシドーシスやある種の腫瘍など)が起きている可能性はあります。
でも、多くの方の血中ケトン体がものすごく低いのは、多くの現代人は糖質をたくさん食べているからじゃないでしょうか?多数派を正常と考えているだけなのかも。
たとえば日本人には近視の方が多いですが「多くの方は視力1.2以下なので、視力1.2以上の人は異常です」なんて言われたら視力1.5~2.0の方は困ってしまいますよね!?
ケトン体が増えるから危険なのではなく、体内で良くないことが起きている場合にはケトン体が増えること「も」あるということです。
糖尿病性ケトアシドーシスでケトン体がやたらと増えるのも、体が血糖をエネルギーとして使えないので何とかしようとして頑張った結果…なんですよね。
よっしーは糖尿病性ケトアシドーシス経験者で、その後糖質制限を継続していて常にケトーシスになっています。この2つの違いは、誰よりも実感として理解できているつもりです。
ケトン体はかつて悪者扱いされていましたけど、研究が進むにつれてその認識はだんだん変わってきつつあります。
最近よく使われるようになった糖尿病薬のSGLT2阻害薬(尿の中に余分な糖を捨てて血糖値を下げる薬)は血中ケトン体を増やすそうですが、このことによって糖尿病患者の腎臓が保護されるのではないかと考えられているんですって。
ケトン体代謝に関わる遺伝子異常を持つ方や他の何らかの病気をお持ちの方で糖質制限をしてはいけない方もいらっしゃいますが、そうでなければケトン体を恐れる必要は無いと思います。
1型糖尿病でインスリンの自己分泌が極端に減少している場合などは、勝手に糖質制限してインスリン注射を自己判断でやめるとケトアシドーシスになり得ますのであらかじめ主治医によく相談してくださいね。
ヒトの女性は妊娠出産のために男性よりも体脂肪が多いそうだけど、これも脂肪を大事なエネルギーとして使うことを前提としてそうなってきたんだよな。
そうね。みんなが糖質を好んで食べるようになったので、それを作って売る人もたくさん増えて、糖質を食べないと体に悪い…ということに決めちゃったのかもしれないわね。