胃を切ってしまえば糖尿病が良くなる?
数年前、病院の公開糖尿病教室で私の主治医ではない医師が「肥満患者の胃を切ってしまう手術は素晴らしい、日本でもどんどん行われるといいなぁ」とおっしゃったことがあります。
その先生の患者さん(2型糖尿病)が胃ガンで胃を切除したらものが食べられなくなり、インスリン注射を3種類の飲み薬に切り替えることが出来たのだそうです。
インスリン注射を3種類の飲み薬にチェンジしたことがそんなに凄いことかどうかはともかくとして、ガンで食べられなくなった患者さんの気持ちを考えると素直にすごいなーとは思えませんでした…
さて、どうやら肥満患者の胃を部分的に切除して小さくする手術は確かに効果的なようです。日本ではBMI35以上とかなりの肥満の患者さんしかこの手術の適応にはなりませんが、術後1年で糖尿病薬が不要になる患者さんはなんと60~80%もいらっしゃるそう。
2型糖尿病のうち、暴飲暴食タイプで高度肥満の方は「食事を減らして痩せれば寛解する」可能性が高いのでこの結果は当然かもしれません。
しかし、減量手術が肥満解消や糖尿病の予防・改善に効果的だとしても、本当にメリットばかりなのでしょうか?
胃を切ってしまうなんて、考えただけで怖いよ!
そうでしょ?手術なんて最終手段だと思うわ!!
減量手術で物質使用障害と自傷リスク8割増
スウェーデンの研究によれば、減量手術は集中的な生活習慣改善療法と比べて体重減少、糖尿病の新規発症予防および寛解達成の効果が大きかった一方、物質使用障害および自傷のリスクが8割以上高かったそうです。
「物質使用障害」とは、タバコや禁止薬物、アルコールなどの使用によって何らかの重大な問題が生じたにもかかわらずそれをやめられずにずっと使い続けてしまうことだそうです。
「自傷」は自分の体を傷つける行為ですが、他の障害、特に 境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、摂食障害、および 薬物乱用を伴うことが多いそう。
Abstractしか読めていないので「なぜ減量手術によって物質使用障害や自傷などのメンタルヘルスの問題が生じやすくなるのか」はわかりませんでした。
糖尿病患者は「うつ病」になりやすいことはわりと有名ですが、その理由として「病気を管理しなければいけないこと、糖尿病合併症への不安など」が挙げられています。私は他にも理由があるのではないかと思いますが。
しかし減量手術では、糖尿病が改善する人が多いにも関わらずメンタルに問題が生じるということですよね。これはどういうことなのでしょうね??
ちなみに、手術前からアルコール依存症のある方は減量手術を受けることは出来ないそうです。やはり何らかの関係があるからでしょうか。
2017年、アメリカの研究でもやはり「減量手術後にアルコール依存症になる人が多い」とわかったそうです。それまでも経験的にその危険性が高いことは知られていたそうですよ。
大量に食べる楽しみがなくなるせい?
減量手術と物質使用障害について調べているうち、興味深い記述を発見しました。千葉の佐倉病院 糖尿病・内分泌・代謝センター様のサイトです。
減量手術を受けるような肥満の方はストレスから「食べること」に走り、大量に食べることで心のバランスを保っている場合があると。
減量手術を受けると、この「大量に食べること」ができなくなるので、術後に薬物やアルコール依存になってしまう人がいるのではないかというのです。
(↑画像はスタジオジブリ様配布のフリー画像…ありがとうございます)
なるほど、そういう可能性はありますよね…依存していたものがなくなると、別のものに依存してしまうのは頷けます。
ストレスから甘いものに依存して糖尿病になるのは確かに問題ですけど、せっかく糖尿病が改善しても薬物やアルコール依存症になるのであれば、もっと不幸な結果になることも有りえます。
そのような患者さんに本当に必要なのは、減量手術よりもむしろメンタルケアなのかもしれません…よく考えないといけませんよね。
心に抱えているものがなくなれば過食もおさまるよね。
「胃を切ってしまえば過食できなくなるだろう」って単純な話ではないんじゃないかと思うわ。根本的な原因を解決しなければね!