有名人の糖尿病体験を記事にすることの功罪

有名人の糖尿病体験記事の功罪

有名人の記事が与える影響は大きい!

たまに、有名人の方の糖尿病体験がネットの記事になることがあります。たとえば「私はものすごく不健康な生活を送っていて2型糖尿病になりましたが、心を入れ替えて現在は正常血糖値をキープしています」というような内容です。

有名人の記事が世間に与えるインパクトは大きいですよね!しかしこのような記事が世に出ることは良いことばかりでしょうか?

「あの有名人も糖尿病なんだ、糖尿病ってよくある病気なんだな」と思って糖尿病に興味を持つきっかけになるかもしれません、それは良いことだと思います。

しかし「へぇ、糖尿病ってこんな風に暴飲暴食をしていた人がなる病気なんだ。そして、治らない人は努力が足りないんだ」と思い込む方もたくさんいるのではないでしょうか?遺伝の要素が少なく、生活の改善の余地がたくさん有る方ほど改善しやすいのですが…

 

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日本人の糖尿病のうち約95%を占めると言われている2型糖尿病ですが、これは1型糖尿病インスリンを分泌する細胞が破壊されて起きる糖尿病)やMODY特定の遺伝子が原因で若くして発症する糖尿病)ではないと思われるものをまとめて2型糖尿病としているに過ぎません。

2型糖尿病といってもいろいろなタイプが有ることが分かってきています。インスリンは十分に出ていても効きにくいだけの人とインスリン分泌が足りない人、同じ対処法でいいわけがありません。2型だけどインスリン分泌不足があり1型に近いタイプの患者もいて、糖尿病網膜症のリスクが高いのだそうです。

同じ2型糖尿病でも、Aさんの血糖値を上げにくい食材がBさんの血糖値を爆上げすることもあります。だから難しいのです。

有名人の体験を記事にすることによって「糖尿病というものはこうだ」と思い込んでしまう方が増えるのではないかと心配です。

 

にゃご
にゃご

芸能人の記事を読んだだけの人たちはそれ以上調べないだろうしね。

よっしー
よっしー

同じ糖尿病でも自分と違う型については良く知らない方も多いぐらいよ!

2型糖尿病患者は「罪人」なのか?

中には「そりゃ糖尿病になるよ」と自分でも思うような生活を送っていて2型糖尿病になったという方もいらっしゃるでしょう。

しかし、世間一般の人と比べて必ずしも暴飲暴食していた方ばかりとは限りません。私の父は責任ある仕事を任されていて、体質に慢性的なストレスが重なって発症したようです。

私は次男を産んだ後、原因不明の乳児湿疹でものすごく悩んだ時期に一時的にかなり太ったことがありましたが、長男を授かる直前までフィットネスの仕事をしていてこれ以上無いぐらい健康的な生活を送っていたのに妊娠糖尿病になったのが最初のきっかけでした。同時期に妊娠していた同僚は「食べ悪阻」で肉とチョコばかり食べてましたが問題なしでした!!

他にも仕事や人間関係のストレスでつい食べすぎてしまって…という方は結構たくさんいらっしゃるようですが、たまたま2型糖尿病を発症した方だけが「自業自得」みたいに言われるのは変じゃないですか?

 



 

信じられないぐらい大食いのYouTuberさんたちなど、まったく我慢も努力もしていませんが糖尿病にならないじゃないですか。彼らは良くて、2型糖尿病患者は罪人ですか?

患者さんに「生活習慣を改善しましょう」と言うべき糖尿病専門医や循環器内科医の中にも、ラーメンや甘いものが大好きで太っている先生がたくさんいるのを知っていますが、糖尿病でなければそれでいいのでしょうか。「こんな先生に言われたくねえよ」とは思いませんか?

また「1型糖尿病やMODYは生活習慣に関係なく発症します」というのは「生活習慣が悪くなくても発症する」という意味であり、生活習慣が悪い人がたまたま2型ではなく1型を発症することもありますよね。

実際「私は1型糖尿病ですが、好きなものを食べまくった時期に肥満になりました。そのせいか血管年齢も実年齢よりかなり高くなってしまいました」という体験談を読んだことがあります。たくさん食べてインスリンをたくさん注射すれば1型でも太りますし、動脈硬化も進むでしょう。

 

かえって糖尿病のイメージを悪くするかもしれない…

何年か前に「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くなら…(以下、あまりにもひどい言葉なので自粛)」「日本の透析患者の大多数は暴飲暴食を繰り返し、周囲に注意されても運動もせず食べ続けた結果糖尿病になり、それでも節制せず透析が必要になる。自業自得なのに、保険料を食いつぶしている」という記事が問題になったことがありました。

しかし2型糖尿病の発症には遺伝がかなり関与していますし(私の周囲でも、そんなに不摂生しているように見えない糖尿病患者さんは必ずご両親のどちらかが2型糖尿病です)、合併症もどうやら個人差が有るようです。

上の記事では「糖尿病から人工透析になるのは自業自得だ」と書かれていましたが、かなり血糖コントロールが悪くても糖尿病腎症にならない人もいるそうで、2型糖尿病患者の糖尿病腎症リスクに関係する遺伝子も見つかっています。

 

 

つい先日も「私の親は糖尿病と診断されても好きに生活していましたが糖尿病合併症もなく長生きしました」という話を聞きました。その逆に、とても努力していたのに網膜症や腎症が進行してしまった方も何人か知っています。

糖尿病は、発症から食事療法や運動療法の効果、合併症までありとあらゆることに個人差がかなり大きい病気です。だから難しいのです。みんな同じで簡単なら、医師だって患者だって苦労しません。カロリー制限で血糖値が下がらない人、高強度筋トレを禁止されている人、糖質制限ができない先天的な疾患の人、いろいろな人が居ます。

有名人の糖尿病体験を記事にすることで糖尿病に関心を持つ方が増えるのは良いことですが、中途半端に知ることで主に2型糖尿病への差別と偏見を助長することにならなければいいのですが…

余談ですが、有名人を記事にして「私はこんなに血糖値が高かったですが、この神サプリで血糖値が正常化しました♪」というコメントに続いてサプリの広告が載っていたりすることもあるので、よく考えないといけませんね!

 

にゃご
にゃご

正しく知ってもらうのはなかなか大変だよね!

よっしー
よっしー

そうね。微力ながら続けていくわ!

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