外科手術で胃を切除してしまえば糖尿病が治るのですか?
先日、主治医ではない糖尿病専門医の先生とお話する機会がありました。糖質制限推しの医師ではなく、いわゆる普通の糖尿病専門医の先生です。
その先生は以前は糖質制限食には絶対に反対!という感じでしたが、「糖尿病合併症が進行していない人にはいいんじゃないの?」といつの間にか柔軟な考えに変わっていたので驚きました。
日本糖尿病学会の方針も、だんだん変わってきたのでしょうね。先日は山田悟先生が「健康カプセル!ゲンキの時間」という番組で糖質制限について解説なさっておられましたしね。
さて。その先生いわく「僕も最近は患者さんに糖質制限を勧めることがあるんだけど、みんな続かないんだよ。半年以内に半分以上の人は挫折しちゃう。残りも、1年以内にほとんどやめちゃう。日本人だからお米が食べたいし、食費が高くつくから続けられないんだって」と。
うむ、これはなかなか難しい問題ですよね。よっしーの場合、深刻な状況だったのでお米が食べたいと言ってる場合じゃなかったわけですが。
で、先生「胃を切っちゃう手術が日本でも保険で出来るようになって、これがかなり痩せる効果があって、3割の人は糖尿病が治っちゃうんだよ」…えっ、本当ですか!?
先生の受け持ち患者さんが胃ガンで胃を摘出したら痩せて血糖値が下がってインスリン注射を3種類の糖尿病薬に切り替えることに成功したそうですが💦
インスリン注射を3種類の飲み薬に切り替えることがそんなにすごいことなのかどうかはともかくとして、胃ガンで胃を切った患者さんの気持ちを思うと、素直に「すごーい」とは思えませんでした。
ええー!!仮に糖尿病が良くなるとしても、そのために胃を切るのか?オレは絶対にイヤだなぁ…
私だって絶対にイヤよ。簡単に内臓を切ったりして大丈夫なのかしらねぇ?
大食漢がモノを食べられなくなって痩せるからでは?
その話を聞いたとき「えっ…それって、大食漢でインスリンの効きが悪くなって糖尿病になった人が胃を切ってモノを食べられなくなって糖尿病が劇的に改善しただけの話じゃないの?」と思いました。
2型糖尿病と言えば「インスリンの分泌不足」または「インスリン抵抗性」ですよね。個人差はありますが、2型糖尿病患者は多かれ少なかれこの2つの要素のどちらか、あるいは併せ持っています。
このうち、インスリンの分泌不足は加齢や生まれつきの体質(遺伝)が深く関わっていますが、インスリン抵抗性は主に肥満・暴飲暴食・運動不足などによって起こります。※遺伝やその他の原因による場合もあります。
だから家族に誰も糖尿病患者がいない若い糖尿病患者で太っている場合は、単にダイエットするだけでものすごく改善することも珍しくないんだそうですよ。
日本では2014年以降、「BMIが35以上の高度肥満」「半年以上の内科的治療でも減量効果がない」「糖尿病、高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症のうち1つ以上を合併している」という条件を満たす患者に胃を切る手術が保険適用になったそうです。
BMI35未満の患者も手術は受けられますが、保険の適用外だそうです。2018年に肥満を解消するためのこのような手術が600例以上実施されたそうですよ。
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術では胃の約80%を切除してしまうので、術後はかなり少食になってしまうようですね💦そりゃ痩せますよね。
インクレチン分泌がインスリン分泌を促すのか
肥満の糖尿病患者の胃を切除して糖尿病が改善する理由は、どうやらモノが食べられなくなることや痩せることだけではないと考えられているようです。
日本では2014年からスリーブ状胃切除術が保険適用されています。これは、下の図(HEALCLINICS様のサイトからお借りしました)のように、胃を切り取って小さくしてしまう手術です。
この手術は大きく開腹しなくても、腹腔鏡で行うことが出来るのだそうです。傷跡が小さく済むことは良いことですね。
この手術で糖尿病が改善する理由として、インクレチンの関与があるのではないかとされています。
インクレチンとは、食事の摂取により消化管から分泌され、すい臓のインスリン分泌を促進するホルモンです。
術後は、まだ十分に消化されていない食物が小腸に流れ込みます。小腸にはインクレチンを分泌する細胞がたくさん存在しており、インクレチンが分泌されてインスリン分泌が刺激されて糖尿病が改善するというのです。
胃ガンなどで胃を切除した患者さんも、術後にインクレチンの分泌が増加して糖尿病が改善することがあるそうです。
糖尿病治療のために胃を切りたいですか?
胃を切除することで糖尿病が改善するらしいことは何となく分かりました。でも、みなさんだったら糖尿病改善のためにこの手術を受けたいですか?よっしーは、受けたいとは思いません。
この手術はBMI35以上の高度肥満の患者さんを対象に行います。肥満ではなくそれほど大食いでもない糖尿病患者が手術を受ける意味はないでしょう。
そして、確率は低いとはいえ、手術なので死亡例や術後に何か不都合なことが生じる場合もあるんですよ。胃が小さくなったのにたくさん食べて胃が破れることもあるそうです💦
糖質制限などの食事療法であれば、ちょっとやってみて自分には合わないと思えばすぐにやめればいいんです。
しかし、胃を切除する手術を受けてしまって術後に何か困ったことが起きても、切ってしまった胃を元に戻すことはできませんよね?
やはり、内臓を切除してしまうような方法は、もう他にどんなことをしてもどうやっても解決できない場合のみ、最後の手段として行うべきだと私は思うのですが…
結局はインスリンを分泌させることになる
また、この手術でインクレチンの分泌が増加してインスリン分泌を促すということは、なるべくインスリンを分泌させまいとする「低インスリン療法」とは真逆のことをしていることになります。
グラクティブ、ジャヌビアなどの「DPP-4阻害薬」や注射薬のビクトーザなどGLP-1受容体作動薬はインクレチンの働きに注目した薬です。
DPP-4阻害薬はインクレチンが分解されるのを防ぎ、GLP-1受容体作動薬はインクレチンに似た働きをします。いずれも、食後血糖値が上がった時にインスリンの分泌を促します。
だから血糖値は上がらないかもしれませんが、そもそも糖質をたくさん食べてインスリンが大量に分泌されること自体が動脈硬化や糖尿病合併症の原因のひとつになっているのではないかとされています。
これらの薬や注射は、まだ新しいものです。数十年続けた時に本当に何も心配ないのかどうかは分からないと思います。
「糖質制限は長期間やっても大丈夫かどうか分からない」と言いながら、医師達はこれらの薬はどんどん処方しています。なぜでしょう?
「食べ過ぎちゃうのなら胃を切ってしまえばいい」よりも、なぜ余計なものを食べ過ぎてしまうのか根本的な原因を解消しない限りそれはモグラ叩きでしかないと思うんですが。
…血糖値さえ下げれば本当にそれで良いのか、よく考えてみなければいけませんよね。
内臓を切ってしまうことが本当に最善の方法なのかどうかを考えてみないといけないよな!
まずその前に他に何かできることがあるのでは…と思うわ。よく考えてもらいたいわね!